センター試験政治経済第3問の問2について

今回のセンター試験の政治経済で,いわゆる囚人のジレンマゲームについての問題が出された.
http://www.toshin.com/center/s-keizai_mondai_0.html

といっても,「囚人のジレンマ」という用語もゲーム理論の前提知識(特定の解概念についての)も問題を解く上では必要なく,読解力と推理力のある受験生ならば問題文と表に書かれていることのみから解答を導ける推理問題として受け取るのが至当である.このような分析的思考力を問う出題がセンター試験の社会科でなされたのは歓迎すべきことであるし,今後もそうして欲しいところだ.

だが残念なことに,問題文と表から導けることといくぶんでも整合的な選択肢は1つもなく,推理問題としては破綻していると言わざるをえない.

これについては中島大輔さん @D_N_1975 はじめツイッター上で十分指摘されているし,私の発言も含めてまとめも出来上がっており
http://togetter.com/li/926602
これの屋上屋を架すこともないと思ったのではあるが,ブログのエントリーとしてまとめておいても良いだろうと思った次第.


選択肢1・2・4は論評しない.ここでは正答とされている選択肢3

3 A国とB国がともに「協調」を選択すれば,両国の点数の合計は最大化されるが,相手の行動が読めない以上,「協調」を選択できない.

に話を絞ろう.

こういう問題は消去法で解くのだから,選択肢3が「正しく」なくとも他が明らかに間違いなのだからこれを「最も適当」だとして選ぶのが「正しい」,という見解もあるが,言明としての破綻の度合いはどっこいどっこいだとも言える.馬鹿正直に「表から読み取れる内容」のみを根拠に本問を解こうとして立ち往生した受験生が居たとしたら気の毒というべきである.


破綻箇所は少なく見積もって2つあろう.1つには,各国にとっては,相手国が協調しようがしまいが非協調を選ぶのが自国の得点の最大化になっているのであり,これはゲーム理論を知らなくても表を見れば分かることである.その上で,問題文の

ここで両国は,自国の得る点数の最大化だけをめざすものとする

という設定に従う限り,

A国B国は,相手の行動が読めようが読めまいが非協調を選ぶ.

という命題が導かれる.
ゲーム理論では,相手の行動がなんであるかに関わらず自己にとって最適な戦略を支配戦略と呼び,ここでは非協調が各国にとって支配戦略になっているわけだが,上述のようにこの用語を知っていることは問題を解く上で必要ない.

選択肢3では「相手の行動が読めない以上」とある.「以上」とあるからには,相手の行動が読めないことが協調を選ばない(=非協調を選ぶ)ことの根拠となっている,と読むのが自然というものだ.だが,相手の行動が読めないことは非協調を選ぶことの根拠でも何でもない.


もう1つは,「A国とB国がともに「協調」を選択すれば,両国の点数の合計は最大化される」という部分.
「A国とB国がともに「協調」を選択すれば,両国の点数の合計は最大化される」というのは事実であるが,上述のように両国は自国の得る点数の最大化だけをめざすと設定されているわけで,点数の合計の最大化は各国の行動決定とは無関係である.

にもかかわらず,「が」という逆接の接続助詞が付いている.無関係なのだから,本来は順接も逆接も無いはずである.この「が」には別に意味が無いのであれば,全くミスリーディングであると言わざるをえない.また,この「が」に意味があるとすれば,「A国とB国がともに「協調」を選択すれば,両国の点数の合計は最大化されるので,相手の行動が読めるならば,「協調」を選択できる」という命題が先にあって,これのいわゆる反対解釈として選択肢3を得た,ということしか私には考えられない.だがこの反対解釈の元となる命題は上述のように明確に誤りである.


穿った見方になるが,選択肢3は出題のゲームそれ自体ではなく,「協力のジレンマ」一般についての「気分」というか「精神」を述べたものと言えよう.例えば,Stag-hunt gameという似てはいるが異なるゲームについては選択肢3の理解で確かに(それなりに)正しい.だがそれは,本問について「表から読み取れる内容」ではないのである.